シリコロイ基礎講座
1.シリコロイとは
ひとつの鋼で複数の特性を兼ね備えるオールラウンド型ステンレス「シリコロイ(析出硬化系)」。
従来不純物として考えられていたケイ素(Si)を炭素(C)の代替として積極的に活用し、更に微細な金属間化合物を析出させることで、今までに考えられなかった新素材が誕生しました。
Si(ケイ素)の特徴
一般的にSiは溶鋼中の脱酸剤として有効な元素です。
合金元素としては耐熱性が高まりますが、2%の添加限度を超えると脆くなります。
しかしながら、極低炭素(Low-C)にすることでSiを約4%まで添加でき、高強度、耐熱性、高硬度、耐カジリ・焼付き性等の高機能化、また炭素をほとんど含まないため耐食性の劣化を防ぐことができます。
- 高強度
- C(炭素)の代替で強度を増す
- 耐熱性
- 耐熱性・耐高温酸化性が向上する
- 耐食性
- C(炭素)をほとんど 含有せず、耐食性の劣化が少ない
- 高硬度
耐摩耗性 - Si系の硬質な金属間化合物を析出させる
- 高硬度
- 耐カジリ
焼付き性 - Siのを多く含有すると耐焼付き性が増す
- 耐カジリ
Column
地球上で2番目に多く存在する元素”ケイ素”。
地球上の地表付近に存在する元素の割合としては、酸素、ケイ素、アルミニウム、鉄、カルシウムの順に多く、ケイ素(Si)は25.8%と酸素に次いで2番目に多い元素になります。
用途としては半導体用のシリコンウェハ、太陽電池、シリコン樹脂、鋼材添加剤、電磁鋼板、ファインセラミックス、ガラスなどがあります。
近年では太陽電池用シリコンなどソーラーグレードシリコンの市場規模が拡大しつつある注目の元素です。
引用・参考文献:
「クラーク数」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』 2013-3-12 UTC
2.シリコロイのメリット
近年、使用環境の変化やメンテナンス性向上のニーズが増加する中で、シリコロイは製品開発や製造設備部品での開発が活発に行われています。
使用用途や環境にマッチングすると、今までになかったような機能を発揮する場合があります。みなさまの開発やカイゼンのお役に立てれば幸いです。
ひとつの鋼で
複数の特性を兼ね備える- 連続鋳造用ローラーなど悪環境下(耐熱・耐食・耐摩耗)の使用など、長寿命化によるメンテナンスフリー化・トータルコストダウンに。
硬度と耐食性の
バランスに優れる- SUS440C、マルエージング鋼では耐食性不足、SUS630では硬度不足の場合など、今まで対応できなかったところに対応できます。
低温の熱処理で
高硬度化が可能
(時効硬化特性)- 焼入れ時の歪み、焼割れ、寸法変化、酸化スケールの付着等、焼入れの諸問題を解決・加工プロセスの改善に期待できます。
熱処理設計の
自由度が高い- 硬度の微調整や高周波熱処理による局部高硬度化、低温窒化・セラミックコーティング等の複合処理が可能です。用途に応じた硬度調整や複合技術の併用で高付加価値の創造を。
シリコロイは
ニッチな新素材- 高機能化しやすく新製品を開発しやすい、他社との差別化商品をつくりやすいなど、シリコロイの特長×貴社のノウハウで新製品を。
Column
シリコロイのルーツ
シリコロイは故関西大学太田鶏一名誉教授が多年に亘る研究の結果開発された高珪素合金です。高珪素ステンレス鋼「Silicon Alloy(シリコン合金)」の意から、「Silicolloy(シリコロイ)」と命名されました。従来、我が国を始め世界各国の冶金の常識では鉄合金に3.5%以上の珪素(Si)を含有させると、硬さは得られるが脆くなり強靭な材料は得られないと考えられていました。
しかし太田教授は炭素含有量を0.02%以下におさえること、 ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)などを適量配合することにより、脆化を克服し従来の「鋼」では得られなかった強靭性と耐食性・耐摩耗性・高硬度などの優れた特性を兼ね備える 高珪素合金「シリコロイ」の開発に成功されました。
シリコロイは太田先生の第一世代、日本シリコロイ工業株式会社の第二世代、有限会社エス・アイ・テクノの第三世代と不屈の研究精神のDNAを引き継ぎながら、現在も進化し続けています。
シリコロイの種類
- 高強度用オールランド性をお求めの方
析出硬化系のオールラウンドステンレス。高強度×耐食性のバランスに優れています。
代替鋼種例- SUS630
- SUS420J2
- マルエージング鋼
- SKD61etc.
- 析出硬化系ステンレス
- シリコロイA2Silicolloy A2
- 高硬度用更なる硬度をお求めの方
析出硬化系では最高硬度を実現。高硬度×耐食性のバランスに優れています。
代替鋼種例- SUS630
- SUS440C
- マルエージング鋼
- ステライト
- SKD61etc.
- 析出硬化系ステンレス
- シリコロイXVISilicolloy XVI
- 耐食用耐食性をお求めの方
SUS316L相当の耐食性を有し、耐応力腐食割れ性、耐カジリ・焼付き性に優れます。
代替鋼種例- SUS304
- SUS316L
- SUS310S
- SUS329etc.
- 二相ステンレス
- シリコロイB2Silicolloy B2
- 耐熱用耐高温酸化性をお求めの方
SUS310S同等の熱間強度、インコネルに迫る耐高温酸化性を有しています。
代替鋼種例- インコネル601
- インコネル625
- SUS310Setc.
- オーステナイト系ステンレス
- シリコロイDSilicolloy D
4.シリコロイ選定のポイント
シリコロイは必要特性が複数ある場合の方が、メリットを出しやすい傾向があります。
例えば、耐食性だけが必要であればオーステナイト系ステンレスや高合金、また高硬度だけが必要な場合は、マルテンサイト系ステンレスや工具鋼など選択された方が機能面やトータルコスト面で優位かと思います。
シリコロイシリーズの中で最もポピュラーな鋼種は析出硬化系のシリコロイA2とシリコロイXVIになります。
これらは複数の機能性をバランス良く有しているため、長寿命化やトータルコストダウンに寄与しやすいことにあります。
貴社製品の開発やカイゼンをご検討される場合は、このような視点でもご一考頂ければ幸いです。
複数の特性が必要な場合
単独の特性を求める場合
Column
このようなところでシリコロイが活用されています
製鋼所の連続鋳造設備は1000℃を超える溶湯をビレットに成型する装置で、連続鋳造用ローラー(CC Roller)としては非常に過酷な環境で使用されます。
シリコロイ製の連続鋳造用ローラーは耐摩耗性、耐高温酸化性、耐ヒートチェック性(耐熱衝撃性)に優れており、従来材の約3~10倍の長寿命化を実現し、トータルコストダウン、メンテナンスフリー化に貢献します。
必要特性:耐熱性・耐食性・耐摩耗性・耐ヒートチェック性
材質:シリコロイA2 熱処理:過時効処理
「スリットコーターノズル」は日用品から液晶フィルムの製作における最重要部品として使用され、その先端エッジは製品の優劣を決めるとともに、ランニングコストに大きな影響を与えます。
鏡面研削加工で表面粗度Ry0.10μm、先端エッジ10μmを達成しました。また「高硬度・高耐食用金型」として、精密金型や耐摩耗プレートへの応用製品も開発されています。
必要特性:高硬度・耐食性・鏡面性・低熱処理寸法変化
材質:シリコロイXVI 熱処理:時効硬化熱処理