トライボロジー

特殊ナットによる焼付き試験
Seizure Resistance

1. 試験方法

実用的な焼付き現象の比較を行うため、特殊ナットを用いた焼付き試験を行った。特殊ナットはゆるみ止めを目的としたナットで、内部のバネ作用(SUS301)によりボルトのネジ山を強圧し、自由回転を阻止する摩擦トルクを発生させるメカニズムとなっている。

一般的には潤滑剤を用いて使用するものである。今回は無潤滑で締結することで焼付き試験に応用し、各材質の比較を行った。

試験方法は各材質のボルト(M17×40 ピッチ1.0)に特殊ナットを締結(レンチでねじ込み、ねじ戻しを3回行う)し、焼付き評価を行った。ここでいう焼付きとは特殊ナットが固着して動かなくなる状態をいう。

焼付き試験方法
Fig.1焼付き試験方法
焼付き試験後の外観
Photo.1焼付き試験後の外観

2. 試験結果

無潤滑ではSL-A2(C)、SL-XV(I C)の特殊浸炭を行ったものが良好で、焼付き、摩耗の発生はなかった。

次いでSL-XVIの時効硬化熱処理品は締結時の抵抗はあるものの焼付きの発生がなかった。

SUS316L(C)は焼付きの発生はないものの、締結回数の増加に 伴いボルト側に摩耗が発生した。

SL-A2(C)、SL-XV(I C)の650℃の過時効処理を行っているものは表面硬度がHV593、HV620と 若干低いものの良好な結果であった。(過時効処理は中心部の靭性を保持しながら、特殊浸炭処理で表面硬度を向上させています。)

逆にSUS630(C)は同様の表面改質を行い表面硬度が高いにも関わらず焼付きが発生した。

これらの差異は析出硬化系シリコロイ鋼のマトリックス硬度、析出物、化学成分に含まれるSiの自己潤滑性、特殊浸炭処理による表面硬度およびCの相乗効果に起因するものと考察される。

table.1 特殊ナットによる焼付き試験結果
No 材質 熱処理 表面
改質
処理
酸洗 硬度 試験方法 評価 結果
表面 中心部 試験後の状態
01 SUS
304
S     なし HV190 潤滑剤あり 焼付き,摩耗は発生せず
02 SUS
304
S     なし HV190 無潤滑 焼付き発生
03 SUS
304
(C)
S   特殊
浸炭
処理
なし HV503 HV190 無潤滑 摩耗発生
04 SUS
304
(C)
S   特殊
浸炭
処理
あり HV503 HV190 無潤滑 焼付き発生
05 SUS
316L
(C)
S   特殊
浸炭
処理
なし HV800 HV170 無潤滑
〜△
締結回数の増加に伴い摩耗発生
06 SUS
630
(C)
OAG 650℃/AC 特殊
浸炭
処理
なし HV907 HV344 無潤滑 焼付き発生
07 SL-A2
(C)
OAG 650℃/AC 特殊
浸炭
処理
なし HV593 HV400 無潤滑 焼付き,摩耗は発生せず
08 SL-XVI OAG 650℃/AC   なし HV440 無潤滑 焼付き発生
09 SL-XVI
(C)
OAG 650℃/AC 特殊
浸炭
処理
なし HV620 HV440 無潤滑 焼付き,摩耗は発生せず
10 SL-XVI S     なし HV400 無潤滑 焼付き発生
11 SL-XVI AG 450℃/AC   なし HV690 無潤滑 焼付き,摩耗は発生せず
12 SL-XVI
(C)
AG 450℃/AC 特殊
浸炭
処理
なし HV1228 HV690 無潤滑 焼付き,摩耗は発生せず
  • SL:シリコロイ S:固溶化熱処理(1050℃/WQ) AG:時効硬化熱処理 OAG:過時効処理 C:特殊浸炭処理