成功事例 析出硬化系シリコロイのワイヤー放電加工(WEDM)Processing Method for WEDM of Silicolloy 導入前の課題 析出硬化型シリコロイは時効硬化熱処理後にワイヤー放電加工を実施するとクラックが発生する場合があります。特に形状が大きいほどクラックの発生する確率が高くなります。 導入後の改善 予備時効処理を事前に実施することでワイヤー放電加工でのクラック発生を抑制でき、さらに時効硬化熱処理での寸法変化および変形がほとんど発生しなかった。 シリコロイのメリット プリハードン(HRC40程度)で加工が可能で、時効硬化熱処理での寸法変化がほとんどない新しいプロセス設計が可能になります。 マルテンサイト系ステンレスや工具鋼の場合、焼入時の寸法変化や焼入後の加工が難削であるという課題がありますが、析出硬化のメカニズムを利用することで、機能性と加工プロセス改善に貢献します。 析出硬化系ステンレスは焼入鋼と異なった熱処理プロセスで、比較的低温の熱処理で高硬度化するため、焼入鋼のような問題(熱処理歪み、 寸法変化、焼き割れ、酸化スケールの付着など)が少なく、加工プロセス改善に有効です。 しかしながら析出硬化型シリコロイは時効硬化熱処理後にワイヤー放電加工(WEDM ; Wire Electrical Discharge Machine)を実施すると クラックが発生する場合があります。特に板厚や直径が大きい場合に発生する場合が多いことが課題でした。 今回、新たな工程を確立することを目的として、時効硬化熱処理後の寸法変化および変形を調査しましたのでご報告致します。 Photo.1 ワイヤーカット切り出し 試験片 工程および検査項目 予備時効処理の条件出し 寸法検査結果 まとめ 1. 試験片 材質:シリコロイXVI ブロック材(ワイヤーカット後のブランク材):100㎜×149㎜×180㎜ 2. 工程および検査項目 シリコロイXVI製の鍛造ブロックを製作:105㎜×155㎜×185㎜ 固溶化熱処理(大気炉):1050℃×4hour/WQ;硬度検査 予備時効処理(大気炉):300℃×2hour/AC(新たな工程);硬度検査 6面フライス加工:100㎜×149㎜×180㎜ 製品用の素材をワイヤーカットで切り出し:ワイヤーカットでのクラック調査および寸法検査 時効硬化熱処理(大気炉):460℃×12hour/AC ; 寸法検査 Photo.2 試験片の外観 Fig.1 試験片の測定結果(試験前) 3. 予備時効処理の条件出し table.1 No 熱処理 ① 熱処理 ② 硬度差 固溶化熱処理 硬度(HRC) 予備時効処理 硬度(HRC) 熱処理 ② – ① 01 1050℃/WQ 37.7 02 1050℃/WQ 37.7 200℃×2hr/AC 40.0 +2.3 03 1050℃/WQ 37.7 250℃×2hr/AC 40.6 +2.9 04 1050℃/WQ 37.7 300℃×2hr/AC 41.3 +3.6 予備時効温度は高い方が応力が除去されやすい傾向があります。 ワイヤーカットでクラックが発生しにくく、切削加工が可能な硬度であること、また応力除去率を向上させることを考慮し、今回はNo4の条件で予備時効処理を実施。形状や目的によっては調整する必要があります。 シリコロイA2(析出硬化系)も同様の傾向がありますが、予備時効処理条件は別途調整する必要があります。 シリコロイXVIは予備時効処理品の時効硬化熱処理(460℃/AC)で、HRC54以上(HRC56~58程度)に硬度が上がります。 4. 予備時効処理の条件出し Photo.3 試験前の測定結果① Photo.4 試験前の測定結果② Photo.5 試験前の測定結果③ Photo.6 試験前の測定結果④ Photo.7 試験前の測定結果⑤ Photo.8 試験前の測定結果⑥ テンパーカラーの付着を防止する場合、真空時効処理を実施する場合もあります。 table.1 測定箇所 記号 時効硬化熱処理前 時効硬化熱処理後 寸法(㎜) 平均(㎜) 寸法(㎜) 平均(㎜) 149㎜ a 148.840 148.840 148.843 148.844 b 148.840 148.842 c 148.840 148.846 d 148.840 148.846 e 148.840 148.844 f 148.840 148.845 180㎜ g 179.610 179.610 179.618 179.614 h 179.610 179.619 i 179.610 179.610 j 179.610 179.610 直角度(80㎜の箇所) 0.0004 -0.003~+0.004 5. まとめ シリコロイXVIのワイヤー放電加工(WEDM)を実施する前に予備時効処理をすることでクラック発生の防止、時効硬化熱処理での寸法変化および変形 を抑制することができた。 今後、本プロセスは特にミクロンレベルの高精度を要求される精密部品などへの応用が期待できる。 関連情報 シリコロイXVI ステンレスの熱処理寸法変化 経年変化:シリコロイXVIの残留オーステナイト測定結果 関連事例 関連事例はありません。 関連Q&A 関連Q&Aはありません。 関連タグ WEDM, クラック, シリコロイXVI, プリハードン, ワイヤーカット, 予備時効処理, 精密加工プロセス ページランキング 硬度換算表 SUS440C SUS420J2 機械的性質比較表 SUS430